坐骨神経痛・椎間板ヘルニアの針灸

坐骨神経痛の針灸療法において、重要なポイントは三点あります。
①施術をするポイント(ツボ):施術ポイントがずれていては何回施術しても効果は上がりません。
②適切な刺激:施術そのものが痛くて苦痛であれば、坐骨神経痛が好転する前にギブアップでしょう。
③経過の把握とそれに応じた施術内容の調整:施術によって生じる変化を読み取り柔軟に対応すること必要です。
・・・坐骨神経痛は、継続的な施術と経過観察が必要な場合の多い症状です。よって、上記の重要ポイントをしっかりと押さえて施術を段階的に行う必要があります。早速本題に入りたいと思います。

①施術をするポイント(部位)
 針灸で
坐骨神経痛の施術を行う際、最も重要なポイント(部位)は『骨盤部インナーマッスル』です。この状態を把握し、施術によって調整ができれば、どんなに広範囲な痛みであっても、着実に好転に導くことができます。それはなぜでしょうか?

 坐骨神経は骨盤部(でん部=おしり)において、複数のインナーマッスルにはさまれるような構造になっています。何らかの原因で骨盤部インナーマッスルが緊張・硬化すると、そこを通過する坐骨神経が締めつけられるような状態になります。それが坐骨神経痛を引き起こし、悪化させるからです。したがって、坐骨神経痛を好転させるためには、坐骨神経を締めつけている『骨盤部インナーマッスル』の緊張をゆるめる必要があります。そして、その施術の際に特に求められるのは、骨盤部(おしり)の厚い筋肉におおわれた細かいインナーマッスルの状態を触知・把握し、ピンポイントの精度で「ツボ」を探し出す技術と、その「ツボ」を生かす繊細な施針の技術です。いずれも、知識・経験・直感を兼ね備えた高いスキルと集中力が要求されます。
【補足1】
インナーマッスルとは、身体の内側(インナー)にある筋肉(マッスル)のことで、姿勢保持や関節動作のコントロールなど、身体の静と動、それぞれのバランスに重要な役割を果たしています。身体の外側にあって、パワーを生み出すアウターマッスルに比べ、インナーマッスルは筋肉の大きさが小さいため、普段あまり意識されることはないのですが、インナーマッスルの異常は頑固な痛みの原因となることが多いという特徴があります。
【補足2】

骨盤部インナーマッスルの緊張を緩める方法ですが、針療法においては直接的な方法と、間接的な方法があり、施術を受ける側の症状の程度、心身の状態、受療経験等を考慮して、方法の選択、施術内容の組み立てを行っております。(刺激方法につきましては、次の項目にて詳述します。)


②適切な刺激(針の方法)
施術のポイント(ツボ)が決まったら、次は刺激方法の選択です。例えば、もう何年も、何十回も針施術を受けた経験のある人と、針施術の経験が全くない初めての人。または、怖がりで不安を感じやすく、痛みに敏感な人と、多少の刺激でも大丈夫な人。用いる針の太さや、施針の深さ、それによる刺激の強さはすべてが同じで良いわけはありません。なぜなら、同じ針の太さ・深さでも、ある人にとっては心地よく感じるかもしれませんが、ある人にとっては逆に苦痛に感じるかもしれません。各々において針施術に対する経験や感受性が異なるのに、施術は全て同じ方法で、同じ刺激でよいのでしょうか?その場合、生じやすいのは、施術効果の「ムラ」です。その方法に合う人だけは良いですが、合わない人は物足りないか、逆に施術がつらいので次が続かない。針療法と言う大枠はあるけれども、その中でも幅広いタイプの方々に対応できるよう、当院では研究と実践を積み重ねてきました。それが深層部筋肉の緊張を緩めるための《直接的針法と間接的針法》です。

【直接的針法について】
当院では緊張した骨盤部インナーマッスルを緩めることを目標として坐骨神経痛の施術を行っております。そのインナーマッスルですが、厚い筋肉にに覆われた、おしりの深い部分に存在しています。従って、そのインナーマッスルに直接針を届かせたい場合には、相応の深さに針を刺すことが求められます。これは、施術者にとっては熟練を要する一方、受け手側にはある程度の刺激への受容度が求められます。この場合、針施術に慣れている、多少の刺激を受容できる体質である場合にはこの直接的な針法が適していますので、同意があればこちらを選択いたします。しかし、針施術になれていない、刺激に敏感な場合には次に述べる「間接的針法」で施術を行います。
【間接的針法について】
では、針施術が初めてで、心の不安や緊張が強い場合。元々痛みや刺激に敏感な体質である場合はどうでしょうか?この場合でも、骨盤部インナーマッスルの緊張を緩めることが、施術の基本になります。ですが、厚いおしりの筋肉に針を深く刺す直接的針法では、受け手の受容度を超えてしまう可能性が高くなります。そこで、その場合は間接的な針法を用い、施針時の苦痛を最小限におさえながら施術を行います。具体的な一例として、顔面部の美容施術に用いることもできる極細の短針を用いて針を皮膚の表面から数ミリ程度刺し、その奥深くにあるインナーマッスルの緊張を緩める方法などがあります。その際、針を打つ場所(ツボ)はインナーマッスルを直接狙う場合と同じことが多いのですが、「ツボ」とは、身体の内側の状態が皮膚上に現れたものであり、それは同時に皮膚上から深部につながる連絡口でもあります。従って、皮膚表面からの刺激であっても、痛みや刺激感をほとんど感じず深部の状態まで十分に好転させることができます。加えて、元々刺激に敏感なタイプの人は、針を無理に直接深く刺すよりも、受容できる刺激レベルで施術した方が、たとえ数ミリ程度の浅い針でも、深部の状態を十分に好転させられることが、経験上からも明らかになっております。(ちなみに当院では顔面の美容施術にも用いることのできる極細短針を用いての施術が可能です。)ただし、この間接的な針法は、直接的針法が可能な人の場合には、やや遠回り的な方法になってしまう可能性があります。また、針施術を初めて受ける人の場合には、始めは間接的針法から始めて、慣れて大丈夫なようであれば、深さを段階的に進めていって、直接的針法に移行してもいいと思います。
【直接的針法と間接的針法の技術的ポイント】
まず両者を用いる際の大前提として必要なのは、身体の表面から、深部にあるインナーマッスルの状態を把握する。つまり深部の状態を察知する能力です。そして、施術による深部インナーマッスルの変化を見逃すことなく把握できることが重要です。施術中には、インナーマッスルの状態の変化により「ツボ」の位置は変わる場合もありますので、それに応じた対応が求められます。また、複数回の施術を継続的に行っていく場合でも、1回1回ごとに状態が変化している可能性がありますので、変化する「ツボ」を見逃さないような「経験的な勘」と「技術」が求められます。(この変化については次項目③にて改めて解説いたします。)
そのほか、「直接的針法」に求められるのは、深部にある目標(インナーマッスル)に針を正確に届かせることです。そして、もちろん、針施術に慣れている人であっても、余計な痛み・刺激を与えないようにすることも重要です。
「間接的針法」に求められるのは、体表面と深部とのつながりをはっきりイメージできるよう心がけることです。体表面での針施術が深部のどの部分とつながっているのかを常にイメージしながら行うことで、適切な施術が可能だと考えております。
③経過の把握とそれに応じた施術内容の調整
坐骨神経痛の施術段階を、再発防止の観点を含めて説明します。

【第1段階:痛みを軽減させる】
坐骨神経痛による痛み・シビレの軽減を第一とします。坐骨神経を直接圧迫・締めつけている骨盤部インナーマッスルの緊張・硬化をゆるめ、痛みの軽減を行います。 施術は主に骨盤部インナーマッスル部分のツボに行います。この段階では、順調であればほんの1~2回で痛みは好転します。しかし、場合によって、ある程度の変化の後、施術回数を重ねても痛みがあまり変化しなくなってしまう場合もあります。もしくは、痛みの好転は一時的で、数日すると痛みがぶり返してしまう場合も有ります。この場合、坐骨神経痛の直接的原因部である骨盤部インナーマッスルばかりに目をとられていては、施療行程に停滞を来してしまう場合があります。
また、坐骨神経の通る部位の痛みよりも、おしり・足の付け根などの股関節の周りや、おしりの中央部付近(仙骨付近)などが主に痛みを感じるように変化する場合も有ります。それら場合、次の「第2段階」を考慮して施術を行います。
【第2段階:痛みの「根」を断つ】
骨盤部インナーマッスルに加えて、その周囲の関連する筋肉を含めて緊張・硬化をゆるめます。そもそも、骨盤部のインナーマッスルには、骨盤や股関節を安定させたり、股関節の複雑な動きに対応する役割があります。そして何らかの原因で、骨盤や股関節の周囲全体が緊張・硬化した場合、それに影響される形で、インナーマッスルも緊張・硬化が進むと考えます。従って、それら骨盤・股関節周囲全体の緊張・硬化をゆるめることで、坐骨神経痛の原因インナーマッスルが、再び緊張・硬化しないようにします。また、ある程度、坐骨神経痛の施術が進んでくることで、主に、股関節の周囲や、おしりの中央部付近(仙骨付近)などに、痛みを感じることもあります。この場合、股関節や、おしりの中心にある仙骨の周りの筋肉などが痛みを発している場合がありますので、それを施術・調整します。すでに、坐骨神経痛による足の痛み・しびれが強くなければ、こちらの施術・調整がメインとなってくることもあります。
 施術は骨盤インナーマッスル部の他、仙骨、股関節周囲、腰、太ももの裏側など、状態を考慮してツボを探し出し、施術します。この段階の目的をある程度達成ができれば坐骨神経痛の痛み・しびれのぶり返しを防ぐことができ、まず一安心できると言えます。しかしながら、場合によっては、骨神経痛再発の可能性が残っているため、それに対応する次の「第3段階」について解説します。
【第3段階:バランス調整・リハビリ】
坐骨神経を直接圧迫・締めつけているインナーマッスルを含む、骨盤部・股関節の周囲における筋肉の緊張・硬化は、仕事や家事、子育てなどによる疲労蓄積、運動やスポーツなどによる使いすぎ、偏った身体バランスによる負担集中などが誘因になって生じる場合がほとんどです。これらの負担は、骨盤部のみではなく、それ以外の背中・腰・足などの場所に蓄積されたものが、まるで「しわ寄せ」のように骨盤部の更なる負担となり、インナーマッスル緊張の固定化・慢性化を促す要因となっていたと考えられます。従って、筋肉の疲労や身体のバランスを背中や腰、下半身全体などの広範囲に渡ってチェックし、それらを整えることで、骨盤部にかかる負担を減少させ、坐骨神経痛の更なる好転と再発の防止を目指します。また、この段階になればストレッチや体操などのリハビリをできる範囲で積極的に取り入れ、弱点の克服に努めます。
【まとめ】

坐骨神経痛の痛みは、基本的に比較的単純な状態であれば、1ヶ月以内に治ることも珍しくありません。少し複雑な場合では「施術による状態の変化」を追いかけながら、2~3ヶ月かけて段階的に調整をします。ですが、時には半年ほどをかけて、からまった毛糸をほぐしていくように問題を一つ一つ解決しながら調整しなければならない場合もあります。また、坐骨神経痛の痛み・シビレの強さと、施療に要する期間は必ずしも比例するわけではありません。最初は激痛であっても、たった数回で好転する場合もありますし、痛み・シビレのレベルは強くなくても、施術に期間を要する場合もあります。要は坐骨神経痛を生み出した言わば「根っこ」の深さと範囲が施療期間を左右するポイントの1つになります。いずれにしても、坐骨神経痛は多くの場合で複数回の施療を要します。その際、1回1回の施術による変化を見極め、その経過に応じて「ツボ」や刺激法を調整する必要があります。継続した施術についての詳しくは、継続した施術が必要な場合と、その進め方
のページにて解説しておりますので、併せてそちらもご覧ください。

【追記・施術の現場より】
#坐骨神経痛の施術経過と腰痛・背中・肩・首のコリ・痛みの関連について。

坐骨神経痛の施術が順調に進み、痛みやしびれが落ち着いてくると、腰痛や、背中・肩・首のコリ・痛みを感じてくる場合があります。経験上、これは決して悪い兆候とは限りません。当人にお話をうかがうと、「坐骨神経痛になる前、慢性的な腰痛・肩こりに悩まされていた。その時の感じに似ている。」と話されることがよくあります。つまり、坐骨神経痛が好転して、元々あった症状が再び表面化したことが考えられます。それは、元々肩こりや腰痛になってしまうような上半身のバランスの悪さを放置したことが、結果的に坐骨神経痛につながってしまった可能性が高いということです。ですので、坐骨神経痛が好転すれば時計の針を戻したように元々の腰痛や肩こりが出現するのは当然といえば当然であると思います。このような場合、上半身のバランスを整える施術を継続し、腰痛や、背中・肩・首の症状に順次対応させます。上半身のバランスを整えることで、坐骨神経痛の根源となる、腰や骨盤部(おしり)への負担を減らすとになり、坐骨神経痛の再発防止にもつながります。逆に言いますと、坐骨神経痛症状がおさまっても、上半身のバランスの悪さを放置してしまうと、坐骨神経痛の再発の可能性を残してしまうことになりますので注意が必要です。私の経験上も、上半身のバランスが整い、上半身の症状が好転する頃には、坐骨神経痛再発の心配は必要なくなることがほとんどです。したがいまして、坐骨神経痛の施療過程において、腰痛・上半身の症状(背中・肩・首のコリ)が出現した場合には、なるべく放置をせずに継続して施術を継続することをおすすめいたします。
#股関節のねんざ・お尻の肉離れに引き続く坐骨神経痛
何らかの原因で股関節をひねってねんざをしたり、お尻の筋肉を肉離れした状況から、時間が経過したのち、坐骨神経痛が発生することがあります。(その際、股関節の捻挫や肉離れの痛みはまだ残っていたり、すでに感じなくなっていたりと、様々です。)股関節のねんざやお尻の肉離れに引き続く坐骨神経痛の場合、考えられる原因は、ケガによって引き起こされた股関節、お尻の筋肉の緊張により、坐骨神経が刺激されたためです。つまり、筋肉には損傷を受けた部位をカバーしようと緊張する性質があるのと、あるいは痛みのため筋肉が緊張してしまう、痛みをかばうために筋肉に過度の負担が生じるなどの要因により、坐骨神経を取り巻く筋肉の緊張が強くなり、神経を刺激して痛みが発生すると考えられます。そして、それはねんざや肉離れの損傷が残っている段階で発生することもあり、ねんざ・肉離れの痛みなどが気にならなくても、筋肉の緊張が残っていて発生することもあります。施術は緊張した股関節周囲(お尻)の筋肉を緩めることが主になります。ねんざや肉離れ部位には問題なく、それほど筋肉の緊張が強くなければ、あまり時間はかからない場合がほとんどです。ねんざや肉離れの問題が残って場合では、そちらの施術も並行して行えます。回復期間は、ねんざ・肉離れの回復具合により左右されます。また、傷めた部位をかばうなどして腰や骨盤のバランスが崩れている場合がありますので、必要に応じて調整します。

なお、ねんざ・肉離れに対しましてはねんざ肉離れのページをご参考いただけます。


  

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